謙信様との両ルート(幸福な恋・情熱の恋)をどちらも恋度MAXで秘密エンドを見ると、特典が貰えるんだよ!
特典は「理不尽な感情、幸福な日常」が読めるのとロングボイスだぞ
理不尽な感情、幸福な日常
謙信様、いい旅行にしましょうね
そうだな
穏やかな風が●●●の髪をさらさらとなびかせる。
それを見て謙信は穏やかに目を細めた。
(眩しいな)
上杉家傘下の小国の視察も兼ねて、謙信は●●●を小旅行に連れ出していた。
馬を宿に預け、ふたりで山間を歩く。
何だか、こういうのいいですね
旅が好きなのか?
弾んだ声で話す●●●を抱きしめたい衝動に駆られながら問いかける。
それもありますけど…謙信様が私を遠くに連れて行ってくださるのが新鮮な気がして
……確かにそうだな
以前の俺ならば身近に閉じ込めることはあっても、
遠くへ連れ出すことなど考えられなかった
だから、嬉しいです
陽の光の中で笑う●●●の何もかもが輝いて見える。
こうして俺は気づかぬうちに変わっていくのかもしれんな
……嫌ですか?
嫌なわけがない。お前によって変えられることは、俺の幸福だ
ちょうど良い。この旅の間、俺は意識して己の生き方を模索してみることにしよう
お前との人生をこれから作り上げていくために
謙信様……
心から湧き上がる真実を伝えると、●●●は感極まったように声を詰まらせた。
そこへーー
おい、お前ら!
(何だ? 今、良いところだぞ)
せっかくの雰囲気をぶち壊す野卑な声に、謙信は不機嫌になって顔を上げる。
ただの山賊か
(よりにもよって、こんな時に)
山賊!?
身なりの悪い男たちが十数人ほど、にたにたと刃物を構え、こちらを見つめていた。
いかにも。金目のもんをすべて置いて行ってもらおうか
(さて、どうしたものだ)
考えるより先に刀にかかっていた右手が、早く暴れたいと疼いている。
(以前の俺ならば嬉々としてすぐにでも斬りかかっていたがーー)
(これはさっそく新しいやり方を模索する機会が回ってきたのではないか?)
隣で顔を曇らせている●●●をぐいっと引き寄せーー
謙信様っ?
山賊たちに堂々と宣言する。
どいてもらおうか、お前たち
は?
良いか。今からこの女を安全な場所に隠す。その上で俺がお前たちを倒す
だからどけと言っているのだ
……
山賊たちはあ然とした顔で黙り込む。
(なぜだ。理解力が乏しいのか?)
あの、謙信様…
腕の中で●●●が目をぱちくりと瞬かせる。
その顔に浮かんでいるのは恐怖というよりも半ば呆れに近い。
(怖がっていないのは良いことだが…)
何だ?
あの人たちに、わざわざ計画を教えなくてもよかったんじゃ…
(なるほどな。何も言わず逃げれば良かったのか)
このような弱そうな奴らから逃亡する経験が不足していて、判断力が鈍った
戦略的撤退であれば無論、経験を積んでいるが
(新しいやり方を模索するのも、なかなか骨が折れる)
ええい、何をわけのわからねえことを言ってやがる!
痺れを切らしたように山賊がわめく。
(短気な奴だ。人が苦労してやってるというのに)
袋叩きにしろ! てめえら
(仕方ない。当初の計画より狂いがあるが)
即座に刀を抜き放ちーー
ぐあっ!?
前方からかかってきた三人の得物を防ぎ、弾き、叩き落とす。
行くぞ、●●●
は、はい
●●●の手を掴んで空いた隙間から走り出る。
ま、待ちやがれ!
山賊たちの怒号を後ろに近くの山林に飛び込み……
(この辺りで良いか)
鬱蒼(うっそう)とした茂みを見つけ、●●●をその後ろに連れこむ。
良いか、危ないからここに隠れていろ。お前はここに座り…いや待て
(地面に直接座らせるわけにはいかん)
懐から手拭いを取り出し、素早く地面に広げる。
良し。座れ
ありがとうございます、あの…
髪を乱れさせてしまったな
次からはもっと余裕を持って逃げられるよう気をつけよう
●●●の髪を指先でさっと撫でつける。
謙信様。嬉しいですけど、あまりゆっくりしてる時間はないんじゃ…
わかっている
(だが、その前にーー)
んっ
柔らかい唇を盗み、素早くその場を離れた。
(ここまでは完璧だな)
…………
……
そこから間もなくして、山賊たちが追いついた。
あっ、いやがったぞ。女はどこにやった
俺に勝てれば教えてやろう
(さっさと片付けるか)
刀の柄を握り、切っ先に意識を集めーーひと息に駆け抜けた。
な、早……、ぐっ
お前が遅いだけだ
身を翻し、次々に斬撃を浴びせる。
そのたびに倒れ伏す山賊を、何の感慨もなく見つめた。
(飽きたな。早く●●●とのひとときに戻りたいものだ)
ふと●●●を隠した茂みに目を向けると…
(……頭が出ている)
ひょこりと茂みから頭を出した●●●が心配そうにこちらを見ていた。
(最高に愛らしいが、お説教が必要なようだ)
(俺に心配をかけた咎で山ほど口づけてやろう)
てめえ、何、よそ見をしてやがる……あ!
(しまった。見られた)
女がいやがったぞ! ……あぐっ
うるさいぞ
わめいた山賊にとりあえず一撃をお見舞いして黙らせると、
じりじりと残りの山賊たちも謙信から距離を取った。
おい、何かこいつ危険だぞ。逃げた方がいいんじゃねえか
(雑魚どもに構うより、●●●へ言い聞かせる方が優先だ)
●●●の方に向き直り、声をかける。
こら。何をしている? 危ないから、隠れていろと言っただろう?
お前は俺の言うことを聞かずに、命を無駄にするつもりか?
●●●は慌てたようにぶんぶんと首を横に振った。
(良い子だ)
……ん、わかれば良い。お前が死んだら俺は生きていけん。俺を殺してくれるなよ
謙信が笑いかけると、●●●も安心したように頷く。
はい。ごめんなさい、謙信様。私、大人しくしてます…
●●●が再び茂みの後ろで身を隠そうとした時……
きゃっ
どうした……!
つんのめって転んだ●●●の声が聞こえ、謙信は動揺する。
すみません、ちょっと擦りむいちゃっただけです。私に構わず続けてください
(擦りむいただと…?)
ーー許さん
目の前の山賊たちを睨みつける。
へ?
え?
山賊ども……。よくもやってくれたな
(●●●の肌に傷を…)
ええっと、謙信様。正直その人たちは関係がないような気がするんですけど……
律義に顔を出さないまま、困った様子の●●●の声が聞こえる。
そうだそうだ!
逃げ腰になった山賊たちが口ぐちに抗議するけれど……
直接は関係はないが、俺はお前たちに腹が立っている
よって成敗してくれる。覚悟しろ
り、理不尽すぎる…
目に絶望の色を浮かべた山賊を、容赦なく謙信の刀が叩き伏せた。
(そう、感情とは常に理不尽なものなのだ)
謙信にとって常に感情は嵐のようなものだった。
肉体の中を突如として吹き荒れ、行動へと駆り立てる。
(けれど今、俺のむき出しの感情は●●●の与える幸福の中にくるみこまれている)
お前たちは運が良い
俺に殺されずに済んだのだから
全員を地に転がしたあと、謙信が傲然と命じた。
その代わりーー今すぐここから消えろ。これ以上、俺の邪魔をすることは許さん
に、逃げろ…!
負傷した身体を引きずり、山賊たちはほうほうのていで逃げていく。
その姿が完璧に見えなくなるまで見送り、謙信は刀を収めた。
(これで邪魔者は去った)
おいで、●●●
はい!
●●●は輝くような笑顔で駆け寄り、謙信が広げた腕の中に飛び込む。
(温かい)
しっかりと受け止めて抱きしめる。
ありがとうございます、謙信様
ああ。怖くはなかったようだな
(山賊たちから逃げている最中も、ずいぶんと●●●は落ちついていた)
ええ。謙信様が絶対に負けるわけないって知ってたのもありますけど…
●●●は、ふっと陽だまりのような笑みをこぼす。
あなたの様子を見てたら、怖がるどころじゃなくなってしまいました
どういう意味だ?
だって最初から最後まで余裕なのに、どこか一所懸命で……やってることは何だかおかしいし
(待て)
お前といる時に山賊から襲われた時の新しい対処方法を、俺なりに模索していただけだ
後半の方は我ながら完璧だと思っていたのだが
●●●が絶句したあと、しみじみと呟いた。
……謙信様って
何だ
いいえーー仕方のない人ですね
心底おかしそうに笑う●●●を、むっとして見つめる。
仕方がないのはお前の方だ
(こんなにも俺を必死にさせる)
俺のやり方がどう間違っていたのか、お前が長い時をかけて教えろ
ふふ……その前に私が謙信様のやり方に慣れてしまいそうですね
(それも悪くない)
(そうやって、ふたりで新しい人生を作り上げていけるとすれば、何と幸せなことだろう)
たまらない気分になって、目の前の愛しい女を抱きしめる。
……いい加減、笑いやめ、●●●
(さもないとーー)
……んっ
まだ笑っている唇をそっと掠め取り、呼吸の半分を奪ってやったー…
謙信様のちょっとズレたところが愛おしい!