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イケメン戦国 | 伊達政宗プレミアストーリー①「濡れた口づけ」

このページではイケメン戦国政宗のプレミアストーリーをネタバレしていくよ!!

今回の「濡れた口づけ」第二話後半の恋の試練プレミアストーリーになるぞ!!

プレミアストーリー「濡れた口づけ」

政宗に気に入られ、いたずらをされながらも信長に依頼された仕事などを二人で解決していきます。

信長から恩賞をもらったあと、自分もまた命を助けてもらったお礼を言いにいくと政宗に急に湖に連れて行かれます。

※主人公の名前を呼ぶ部分は●●●にしています。


……っ、おい、大丈夫か

だ、大丈夫……っ

政宗に身体を押しあげられ、私は湖から湖畔へと這い上がった。
怪我はないものの、お互いに頭から爪先まで水浸しだ。

(び、びっくりした……っ、一瞬、死ぬかと思った……!)

私達、どうなったの……?

あっちの斜面から、湖に落ちたんだ

見ると、さほど高くはないけれど急な崖になっている地形が見える。

(私が、後ろも見ずにさがったから……)

自分の不甲斐なさに、小さく肩を落とす。

……ごめん、不注意で政宗まで道連れにしちゃって

いや、俺も大人げなかった。悪かったな
逃げまどうお前を追うのが楽しくてな

政宗は岸辺に腰を降ろし、濡れた前髪を掻き上げて愉快そうに笑う。

しかし、湖に落ちたのは初めてだ。お前がいると、本当に退屈しない

湖に落ちて喜ぶなんて、政宗くらいだと思うよ……

そうか?……まあ、文句があるとすれば、眼帯に水が入ったことくらいだな

(あ……)

面倒そうに政宗が眼帯の紐を解いた時、
水の滴(したた)る髪の狭間から、隠れていた右目が露わになった。

あまり見ない方がいい。気持ちいいもんじゃない

(……刀傷がある。戦で負ったのかな……)

……何だ。珍しいか?

あ、その……右目、どうしたのかと思って……ごめんジロジロ見て

(触れられたくないことかもしれないのに、失礼だよね)

はっと気づいて、慌てて視線をそらす。

右目はなあ……食った

えっ!?

どんな味がするのかと思って。よく見たらお前の目も、美味そうだな

……嘘でしょ?

真顔でじいっと私の目を見つめる政宗に、危機感を覚えて後ずさる。

冗談だ、冗談

政宗は愉快そうに声を上げて笑った。

(またからかわれた……政宗の冗談は、冗談に聞こえないよ…)

小さい頃に病気で失明して、眼球が気味悪い状態になってな

(えっ?)

それが原因でまぁ……色々あって

それなりに悩んだ挙句、右目ひとつに振り回されるのが、嫌になって
信頼している部下に、取ってもらったんだ

……っ

この刀傷は、その時のもんだ。戦の勲章じゃなくて、残念だったか?

う、ううん、そんなわけないじゃない……

(……やっぱり気軽に聞いていいことじゃなかった)

……ごめんね、突然右目どうしたのなんて聞いて

何で謝る。別に、大したことじゃないだろ

(大したことなくないよ……ものすごく、辛いことだったはず)
(私の悩みなんて、とてもじゃないけど比べられないくらいに)

今朝から引きずっていた悩みが、あまりに小さいことに思えて情けない。

……政宗は、すごいね

何だ、突然あらたまって

だって…きっと右目がきっかけで、色んなことが今まで通りじゃなくなって
すごく怖くて大変だったはずなのに……乗り越えて、堂々と生きてるから

大げさだな

(何でだろう……私、政宗と自分を重ねてる)

自分の意思と関係なく、取り巻く世界が急に変わってしまった。
それが少し似ていると、勝手に感じたからかも知れない。

私、この時代に来て、今まで当然だった常識も、何一つ通用しなくて
政宗がいなかったら、昨日も今日も、無事じゃすまなかったし…

(こんなずぶ濡れで、なに弱音吐いてるんだろ……情けない)

自分でも不思議なくらい、溜めこんでいた悩みが口から零れていく。

一人じゃ自分の身ひとつ守れないって思ったら、不甲斐なくて……
今朝、いっそこのまま部屋に閉じこもってようかなって思ってたんだ

ふーん。なんで閉じこもらなかったんだ?

えっ?

その声に顔を上げると、政宗が真っ直ぐにこちらを見つめていた。

それは……

(あ、そうだ。政宗の手紙を読んで、それで……)

閉じこもってるなんて性に合わないと思って……お腹も減ってたし

いい理由じゃねえか

おかしそうにつぶやき、政宗が笑う。

そうかな。ただ、不安を見ないようにしてるだけかも

●●●

(……っ)

政宗に名前を呼ばれた刹那、電気が走ったように背筋が伸びる。

(また、だ……。昨日、馬に乗ってた時も感じたけど)
(政宗の、こういう目を見ると……視線が逸らせなくなる)

強い眼差しに見据えられ、鼓動の音ばかりが速くなっていく。

生まれたからには、全力で生きることを楽しむべきだ
命ある限り、自分自身の信条に恥じない生き方をするべきだ

信条に恥じない……?

お前の『性に合う』やりかたで、ってことだ
そうしないと、絶対に後悔する

そう距離は近くないのに、政宗の言葉が耳元のすぐ傍で響く。
声が届くたび、耳の奥で血が脈打つのを感じた。

嫌がって隠れてても、楽しんでても、どうせ腹は減る
脅えて食う飯よりも笑って食う飯の方がうまいに決まってるだろ

……なに、それ

ついでみたいに最後に付け足された言葉に、ふっと肩の力が抜けた。

……っ、ふふ

なんだよ、何笑ってんだ

ううん、なんでもない……

(何なんだろう、本人はたぶん、無自覚なんだろうけど、)
(いつも、緊張を解いてくれて、それに勇気づけられる)

以前にも、こんなことがあったことを思い出す。

真正面から風を受けたほうが、気持ちいい
怖がって縮こまってちゃ、楽しめるもんも楽しめねえぞ

(あの時も、今も……)

政宗と一緒にいるだけで、ふっと心が軽くなる。

ったく、真面目に話してんのに、失礼な奴だな

すっかり気が抜けて笑っていると、
隣から伸びてきた手に、頬をむに、とつままれた。

…っ、いひゃい!

ごめんなさいと言え

……ご、ごめんなひゃい

よし

満足げに政宗が笑うと、ようやく頬の手が離される。

(もう、容赦ないなぁ)

つままれた頬を擦りつつも、胸のつかえが取れたような軽い気分だった。

(……まず自分のできることから、少しづつ、頑張ってみよう)

何の不安もなく、そう思えた。
感謝を込めて、政宗の方を見上げる。

政宗のおかげで気がすごく楽になった。ありがとう

……

微笑んでお礼を伝えると、政宗がふいに目を瞬かせる。

……へえ

小さく笑みを零しながら、政宗は再び私の頬へ、
さっきよりも優しく、指先を滑らす。

政宗?どうし…――

(え……?)

声が途切れると同時に、唇に柔らかい感触が触れた。

…っ……、ん

溢れた政宗の前髪から、ひやりとした雫が頬へと落ちる。
その一瞬のあとに、またぬくもりが唇を通して伝わってくる。

(……なに……?)

…、ん……っ、んん!

とっさに政宗の胸元へと手を伸ばすけれど、たやすく捕まえられる。
さらに深く唇が重なると、身体が草の上へと倒された。

ま、政宗……っ

しー、黙ってろ

っ……ん

片手で荒っぽく頬を包むと、政宗はまた私の唇を塞いだ。

(待って、何、なんで……?)

薄く目を開き戸惑いを訴えようとする。
けれどすぐ、政宗の青い瞳と視線が絡みつき、余計に顔に血が昇る。
政宗は幾度か私の唇を悪戯に食むと、すっと身体を起こした。

ん、ぁ……っ

無意識のうちに甘い声が漏れ、文句を言うのも遅れてしまう。

……●●●、もっと普段から笑え

(え……?)

いまだ近い距離で見つめ合ったまま、ぽつりと政宗が零す。

な……なんで

お前の笑顔は、可愛い

(な……っ)

優しげな声に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
言葉を失っていると、どこからか蹄(ひづめ)の音が聞こえてきた。

……お、馬が来たな。助かった

先程の政宗の家臣たちが湖を迂回(うかい)してきたらしい。
呆然とする私を尻目に、政宗は立ち上がって家臣達に手を握る。

(……何が起こったの)

唇にまだ、柔らかい感触が残っていて離れない。

(私いま、政宗にキスされた…?)

考えただけで、心臓がうるさいくらい高鳴る。

ほら、●●●、帰るぞ

いつも通りの政宗とは正反対に、
安土城へと帰る道中、私の心はずっと穏やかさを取り戻さなかった。


うきゃああああ、いきなりキスしてるぅぅぅぅ