このページではイケメン革命フェンリルのプレミアストーリーをネタバレしていくよ!!
今回の「恋に似ている」は第10話後半のアバター試練プレミアストーリーになるぞ!!
プレミアストーリー「恋に似ている」
赤の軍との戦闘で重傷を負ってしまったルカ。兄であるヨナは見舞いのために黒の兵舎にやってきます。
主人公とフェンリルは敵軍であるヨナを案内し、それがシリウスにバレてしまいます。
※主人公の名前を呼ぶ部分は●●●にしています。
ここまで来れば、シリウスも追っては来ねーだろ
そ、そうだね……
(シリウスさん、かなり怒ってたな)
【回想】
勝手なことばっかりしやがって、クソガキが。よっぽど叱られてえみたいだな?
逃げるぞ、●●●
え!?逃げるって、どこに……
どこでもいいけど、邪魔が入らねえとこ
今夜はまだ、お前といたい。――来いよ
走ったせいで乱れた呼吸は次第に整うけれど、鼓動はうるさいままだ。
(フェンリルの何気ない言葉がいつも、私をこんなふうにドキドキさせる)
(魔法でもかかってるみたいだ)
●●●、ここでちょい休憩な
フェンリルはジャケットを脱ぎ捨てると、草むらの上へ無造作に敷いた。
座れよ
えっ、でも、
いーから。ほら
自分は地面に直接腰を下ろして、フェンリルがジャケットの上をポンポン叩く。
ありがとう……
申し訳ない気持ちで座り、膝を抱える。
(レディーファーストが徹底してるな)
(兵舎で皆と騒いでる時には、そんな面、全然見せないのに)
改めて感心するけれど、フェンリルは何ごともなかったように話題を切り変えた。
で、さっきは何を言いかけてた?
尋ねられて、途切れた会話を思い出す。
●●●? どーしたよ、苦いもんでも食ったみてーな顔だな
なんでそんな顔してんのか、言ってみ?
なんだか少し、悲しくて……
(そうか。フェンリルは、シリウスさんに怒られるのが嫌で逃げ出したんじゃなくて、)
(私を心配して、話を続けるために連れ出してくれたんだ)
気付いた途端、じんわり胸が熱くなった。
なあ、何が悲しいか、俺にも教えといてくれねー?
じゃなきゃ、お前を笑顔にできねーし
……私が、悲しいのは
次会う時は、戦場だ
だな
赤のクイーンとしてじゃなく、ルカのお兄さんとして接したヨナは悪い人じゃなかった
フェンリルとヨナも、個人的に憎しみ合ってるわけじゃないって、見ててわかった
なのに……この先に戦いが待ち受けてるかもしれないことが、悲しいの
…………
(よそものの私が、こんなこと言うのは間違ってるかもしれないけど……)
黒の軍と赤の軍が、和解する道はないのかな?
ためらいがちに伝えた言葉への返答は、ごくさっぱりしたものだった。
今さら引き返せねえ。どっちかがぶっ倒れるまで、ヤるしかねー
500年の長い長い時間をかけて、こじれにこじれて、この国は後戻りできなくなってんだ
(500年……。なんて重い年月だろう)
(たった1ヶ月しかクレイドルにいない私が、口を出せることじゃないんだ)
そう考えたら、すげーテンション上がらねー?
えっ?
俺たちの代で、500年間の憎しみ合いに終止符を打つ
最高にスカッとする筋書じゃねーの。こんなラッキーチャンス、逃せるかよ
(ラッキーチャンスって……。フェンリルの発想は、いつも私の予想を越えるな)
フェンリルは、戦うことが本当に好きなんだね
ああ、好きだな、理屈じゃなく。こんなに血が沸騰すること、他に知らねー
俺は、戦うために生まれてきた。だから人生全部、戦いに懸ける
フェンリルがそこまで戦いにのめり込む理由って、何……?
ん……?
(戦うのが好きでも、フェンリルは誰かを傷つけて快楽を覚えるような人じゃない)
敵を倒す時でさえ、殺傷能力のない魔法銃や改造兵器を使うくらいだ。
人生全部懸けるほど、何がフェンリルにそうさせるの?
んなこと聞いて、どーすんだよ
ただ知りたいの。フェンリルのこと、もっと
お前はもう、相当知ってると思うけど? 俺の苦手なもんから好きなもんまで
まだ足りないよ。もっとちゃんと、知りたい。
ふうん? やけに必死じゃねーか
だって、時間がないから。……そばにいられるのは、次の満月までだから
…………
(そばにいられるのは、次の満月までなのに――好きに、なったから)
一緒にいられる時間をめいっぱい使って、フェンリルを……知りたい
――なんで、知りたいと思うんだ
それは……
好きだから、なんて、とても言えない。
“楽しく過ごしてカラッと別れるためにも、お互い恋なんてしないこと”
フェンリルが私を思って持ちかけてくれた大事な約束を、意地でも守りたくて、押し黙る。
(あれ、私が質問してたはずなのに、いつの間にか逆になってる……)
●●●、答え、ちゃんと聞きてーんだけど
え……
艶やかな仕草で顎を持ち上げられ、息が止まった。
強烈な引力を持つ瞳が、すぐそこまで迫る。
視線は、照準を定めている時のように鋭くて、同時にどこか色香を帯びていた。
(っ……フェンリルのこんな顔、見たことない)
鼓動が騒ぎ、回りの音が聞こえなくなる。
(でも……答えは、言えない。絶対に)
冷静さをかき集め、私はフェンリルを真っ向から見つめ返した。
フェンリルこそ……っ、なんで、そんなふうな目で、見るの
そんなふう、って?
(そんなふうって、いうのは……)
骨まで溶けそうな、激しい眼差し。
フェンリルの瞳に浮かぶ、あられもない熱は、なんだかまるで――
恋に、とてもよく似ていた。
(まさかそんなこと……あるはず、ないよね?)
(きっと気のせいだ。私たちは約束したんだから、恋なんてしないって)
とっさに頭で否定しても、心が否応なしに浮き立ち、心臓が鼓動を打ち鳴らす。
苦しくて、これ以上はフェンリルの視線を受け止めきれなくなる。
……わからないなら、もういい
わかりたいから、言えよ
(え……)
顎をやんわり掴まれ、火照る顔を背けることを許してもらえない。
フェンリルの親指が、誘うように、唇の上を撫でていく。
(ん……っ)
触れられたのはほんの一瞬なのに、甘い感覚がほとばしる。
俺も知りてーんだよ。お前のこと、もっと
(ぁ……っ)
ふに、と指の腹で下唇を押され、少しだけ吐息が漏れた。
過剰に反応してしまうことが恥ずかしくて、目じりが熱くなる。
(フェンリルも、もしかして、私を……?)
足元がふわふわするのと同時に、胸が引き絞られる。
喜びなのか切なさなのか、その両方なのか――
この気持ちに、なんて名前を付ければいいのだろう。
(全然、なんにも、わからない。フェンリルの指先が、熱いことだけしか)
どちらかがほんの1ミリ近づけば、キスになる。
その1ミリをどうにも出来ず、ただ吐息を混ぜ合わせる。
なんで、こんなこと……するの?
……さあな
(答える気、ないってこと……?)
けれど、こうして質問を重ね合い、回答をはぐらかし合っても――
答えは全部、お互いの瞳の中にある気がした。
(これじゃまるで、私たちふたりとも――)
(恋のさなかに、いるみたいだ)
唇と唇が今、触れ合ってないことの方が、いっそ不思議だ。
近づける距離の臨界点で見つめ合い、身じろぎも出来ない。
お互いの眼差しにがんじがらめになったまま、夜が音もなく、更けていった。
イケ戦とは違って主人公が帰ることが前提になってるから、すごく切ないですね……